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手を伸ばす。
黒く塗り潰された空にぽっかり浮かんだ明るい光。
黄色。というよりは、白。
すっかり肌寒くなった夜の風は冷たいけれど、天から降り注ぐその光は柔らかい。
「なぁんか掴めそうだな。」
掴めないけど。
伸ばした腕の先。丸く浮かんだそれを包み込むようにそっと手のひらを閉じる

丸みを帯びた手の中に閉じ込められた月。地球に一番近づいたがゆえにいつもより大きく、明るく見える衛星。
「欲しいのか。」
言えば、驚いたようにこちらを振り返る。月華に照らされてちかちかと瞬く白銀。空に浮かぶそれと同じように。

「いいや?ただ随分近く見えるなぁって。」
「近くで見たいんならアレに乗ったらもっと近くに行けるんじゃないか?」
ヒゲの生えた顎先で示すのは巨大な車輪にゴンドラがぶら下がった遊具。つられて悠然と立つそれを見遣った丸い頭がさらり、揺れる。

「動いてねぇじゃん。ていうか、上ったら下りなきゃならねぇだろ。」
呆れたように肩を竦めて。動かないその大きな遊具はがらんとしていて、ひっそり佇んでいる。太陽光の反射で浮かび上がったシルエットはどこか侘しい。
「そりゃあそうだな。」

車輪の形をしたそれは構造上どうやっても上ったら下るようになっている。一定時間ゆっくりと上昇し、ゆっくりと降下する。それを早いと思うのか長いと思うのか。
「大体、“欲しい”って言ったらお前が取ってくれんのかよ。」
「まあ、無理だろうな。」

「そこはもうちょっと考えろよ。」
言いながら、でも全然がっかりした様子もなく。むしろおかしそうに。
「俺ぁそんな大それた夢は見ない主義。こっから見るだけで充分。」
うっとりと瞼を閉じ、涼やかな風に前髪を躍らせる。

空に輝く月とは別の地上の月。腕を伸ばして、閉じ込めるように両の手を結ぶ。からっぽの手のひら。弧を描いた薄い唇がふと緩む。
「Promettre la lune。」
「ああ?」
「お前には必要ねぇ言葉だよ。」

ふふ。

月が 笑う。





○Twitter でさばの様からいただきました☆宝物☆
フランス語の月・lune、あちらでは月は「不可能」の象徴らしいです















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